住まいと化学物質(1)

 近年,住宅室内の空気汚染の問題、特に揮発性の有機化合物による健康被害の問題への関心は高いものがあります。その対策については建設省、厚生省、通産省、林野庁、学識経験者及び関連業界団体からなる「健康住宅研究会」で検討が進められてきたところですが、先頃その成果が設計者・施工者向けの「設計・施工ガイドライン」と入居者向けの「ユーザーズマニュアル」という形でまとめられました。 今回のシリーズはこのユーザーズマニュアルの内容を中心に、住宅の化学物質問題の対策についてユーザーが留意する点を解説していきます。


揮発性有機化合物とは / 健康住宅研究会による優先取組物質 / 優先取組物質の健康への影響 / 室内濃度の適正レベル




揮発性有機化合物とは

 揮発性有機化合物(VOC;Volatile OrganicCompounds)には国際的なコンセンサスはありませんが,一般にはWHO(世界保健機関)の沸点に基づく分類が用いられており,沸点範囲が50-100〜240-260℃の有機物質を指します。(表1参照)

表1 WHOによる室内空気汚染源となる有機化合物の
 分類と林産物に使われる代表的な有機化合物
分類(略記)沸点範囲物質名
超揮発性有機化合物(VVOC)
Very Volatile Organic Compounds
<0℃〜50−100℃ホルムアルデヒド
揮発性有機化合物(VOC)
Volatile Organic Compounds
50−100℃
 〜240−260℃
トルエン
キシレン(混合物)
ベンゼン
スチレン
半揮発性有機化合物(SVOC)
Semivolatile Organic Compounds
240−260℃
 〜380−400℃
リン酸トリブチル
フタル酸ジオクチル
粒子状物質(POM)
Particulate Organic Matter
>380℃リン酸トリクシル
クロルピリホス
ホキシム
ピリダフェンチオン
(出典:WHO,Indoor air quality:Organic pollutants,EURO Reports and Studies 111,1987)



健康住宅研究会による優先取組物質

 住宅室内の空気を汚染する化学物質には多様なものが考えられます。このため健康住宅研究会では一般に使用される住宅建材・施工材から放散される可能性の有無や健康への影響の可能性を勘案し,安全な居住空間を提供するため,当面優先的に配慮すべき物質として,ホルムアルデヒド,トルエン,キシレン,木材保存剤,可塑剤,防蟻剤を「優先取組物質」として選定しています。(表2参照)

表2 優先取組物質の主な用途
優先取組物質主な用途についての解説
ホルムアルデヒド合板・パーティクルボードなどに使われる接着剤の原料として利用されるものがあります。 壁紙,壁紙用接着剤の防腐剤としても利用されるものがあります
トルエン施工用の接着剤や塗料の溶剤などで利用されます。
キシレン施工用の接着剤や塗料の溶剤などで利用されます。
木材保存剤木材の防腐・防蟻,防虫及び防かびを目的とした薬剤で,土台などの木材の処理に利用されます。
可塑剤プラスチック(ポリ塩化ビニルなど)の材料に柔軟性を与えたり,加工をしやすくするため に添加する薬剤です。ビニルクロスや合成樹脂系のフローリングなどに利用されます。
防蟻剤白蟻による建物などの被害を防ぐために用いられる薬剤で,土台などの木部の処理や土壌処 理に利用されます。



優先取組物質の健康への影響

 優先取組物質による健康影響は表3のようにいわれています。該当する症状があれば,優先取組物質の放散が要因となっている可能性があります。ただし,表中の症状と発生濃度との関係は,個人差が大きく,これらの数値以下の濃度でも症状がでたり,より高濃度でも症状がでないこともあることに注意が必要です。

健康への影響
表3 優先取組物質を含む空気の吸入による健康への影響
優先取組物質
ホルムアルデヒド・米国産業専門会議による評価では「人に対する発ガン性が,限られた疫学調査,又は動物実験で疑われる物質」と評価されています。

・ ホルムアルデヒドを含む空気を吸入した場合の人体への影響については,一般的には0.08ppmからにおいを感じることが多いとされています。

・ それ以上の濃度では0.4ppm程度の濃度で目がチカチカしたり,0.5ppm程度で喉が痛くなる場合が多いことが報告されています。

・ 慢性的な影響ではアレルギーの症状に影響があることも報告されています。
トルエン,キシレン・トルエン,キシレンを含む空気を吸入した場合の人体の影響については,一般的に200ppm程度の濃度で倦怠感や知覚異常,吐き気等が多くなることが報告されています。
木材保存剤(現場施工用)及び防蟻剤の含まれる薬剤 ・木材保存剤,防蟻剤には有機リン系の薬剤やピレスロイド系の薬剤などが含まれていることがあり,これらを含む空気を吸入した場合,次のような症状がでることが報告されています。

・ クロルピリホスやホキシムなどの有機リン系薬剤では,急性中毒症状として軽度の場合,倦怠感,頭痛,めまい,悪心,嘔吐などの症状を示す場合があります

・ ペルメトリンなどのピレスロイド系薬剤では,急性中毒症状として軽度の場合,頭痛のほか,くしゃみ,鼻炎などの症状を示す場合があります。
可塑剤 ・建材に利用されるポリ塩化ビニル等にはフタル酸ジオクチル(DOP)などのフタル酸エステル類やリン酸トリクレシルなどのリン酸エステル類などの可塑剤が利用されています。

・ 可塑剤を含む空気を吸入あるいは接触した場合,もっとも多く利用されるDOPについては5mg/m3程度の濃度で,目,気道を刺激することが報告されています。



室内濃度の適正レベル

厚生省で組織された「快適で健康的な住宅に関する検討会議」における「健康住宅関連基準策定専門部会」の下の「化学物質小委員会」が平成9年6月にホルムアルデヒドの室内濃度指針値を次のとおり提案しました。

『ホルムアルデヒドの室内濃度指針値として,30分平均値で0.1mg/m3以下を提案する』

 ホルムアルデヒド濃度0.1mg/m3とは室温23℃の下で,約0.08ppmに相当します。
 この指針値は,住宅室内のホルムアルデヒド濃度についての規制を定めたものではありません。しかし,健康住宅研究会では,施工者が居住者の健康被害を低減していくために,目標とすべき濃度として参考にしています。
 次回はより具体的に室内の化学物質の低減、住宅の建築・購入、リフォームする場合にユーザーが配慮する点を解説します。



「大きな目小さな目」(全国版)(農林水産消費技術センター広報誌)1998年7月 第40号


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