保存処理木材

「土台はクリ・ヒバ、梁はマツ」家を建てる上でこんな言葉を聞くことがあります。これはクリには耐朽性があるので土台に、マツは強度性能に優れているので梁などに向いていることを経験的に言い表しているのです。ところが現在は、土台にクリやヒバを使おうと考えても良質な材を手軽に入手することは困難で、価格も決して安いとはいえません。また、建物の構造が樹種本来の耐朽性だけでは十分とはいえない状況も見られるようになりました。そこで、木材を薬剤処理することにより本来の耐朽性を更に高めようとして誕生したのが保存処理木材です。保存処理木材は、明治期、鉄道の枕木にクレオソート処理を施したことから始まり、現在でも電柱・枕木・外構部材・木製遊具・住宅部材などに幅広く用いられています。


保存処理とJAS / 保存処理木材で注意すべきこと



1.保存処理とJAS


木材の使用環境性能
区分
屋内の乾燥した条件で腐朽・蟻害のおそれのない場所で、乾燥害虫に対して防虫性能のみを必要とするもの K 1
低温で腐朽や蟻害のおそれの少ない条件下で高度の耐久性の期待できるもの K 2
通常の腐朽・蟻害のおそれのある条件下で高度の耐久性の期待できるもの K 3
通常よりはげしい腐朽・蟻害のおそれのある条件下で高度の耐久性の期待できるもの K 4
極度に腐朽・蟻害のおそれのある環境下で高度の耐久性の期待できるもの K 5
表1 木材の使用環境と性能区分
 JAS規格における保存処理は、個別の規格ではなく製材規格の1基準として位置づけられています。例えば構造用製材に保存処理を施すと、保存処理構造用製材となります。JAS規格では次のように表示され、保存処理については性能区分と薬剤の略号が示されます。

樹種名 べいつが
等級 ★★★(1級)
寸法 10.5X10.5X300cm
保存処理 K3(性能区分)CCA(薬剤の略号)
製造業者 (株)○○○○

(1)性能区分
 自然界では樹木が枯れれば何らかの生物により自然に分解されていきますが,建物内部の木材も条件が整えば同様に腐朽・分解が始まります。この分解を助けるのが菌類(主にキノコ類)や木材を食害する昆虫類です。これらの多くは高温多湿な環境を好むため、被害の発生状況が環境条件により異なってきます。そのような環境に応じた保存処理木材の性能を5区分に分け、規格基準を設定しています。




(2)使用薬剤
 保存処理薬剤として永い使用実績があるのはクレオソート油とCCA薬剤です。どちらも保存処理木材としての性能は非常に優れており、クレオソート油は今日でも枕木などで使用されています。一方、CCA薬剤で処理された木材は、これに代わる薬剤の開発が進んだことにより生産量はごくわずかになっています。ちなみにホウ素化合物はラワン・ナラ材などの乾燥材を食害するヒラタキクイムシを、その他の薬剤は木材腐朽菌、シロアリを対象としています。
 また、JAS規格では浸潤度と吸収量を以下のように定めています。

表2 使用薬剤と略号
使用薬剤薬剤の略号
クレオソート油
アルキルアンモニウム化合物AAC
銅・アルキルアンモニウム化合物ACQ
ホウ素化合物
クロム・銅・ヒ素化合物CCA
ナフテン酸銅NCU
ナフテン酸亜鉛NZN

〔浸潤度〕:薬剤の木材への注入は通常巨大な圧力釜のような機器を用い、減圧−薬液注入−加圧といったサイクルで処理し、処理後に人工乾燥・養生などを行い製品となるわけです。
この注入工程だけでは薬剤を木材の内部まですべてに注入させることは技術的にもコストの上からも容易ではありませんが、腐朽菌や食害虫は表面から進入するので表面付近の浸潤が均等であれば、中央部までの薬剤注入は必要としないのです。
そうはいっても表面だけでは不十分ですから、規格では薬剤浸潤度(辺材部では深さに関係なく80%以上、心材部では表面付近(10〜20mm)の20〜80%)を樹種の耐朽性能や部材の大きさにより設定しています。一例を示すと図のような浸潤を期待しています。


〔吸収量〕:7種類の薬剤はすべて同レベルの性能を有しているわけではありませんから、 性能区分(K1〜K5)を満たす(浸潤度も同様)吸収量を薬剤の種類毎に規定しています。 吸収量は、保存処理木材に含まれる薬剤濃度を単位体積あたりの重量として表しますが、 上の図のように決められた部分だけの吸収量を規定しているので、実際の木材全体に 含まれる薬剤量を示しているわけではありません。

2.保存処理木材で注意すべきこと


保存処理木材だからといって永遠に腐朽しないわけではありません。
材が外気や湿潤環境に常時露出しているかどうか、地面に接触しているか どうかにより耐用期間が異なるため、使用部位に合った性能の材料を選択する ことが必要です。
同様に遊具や外構部材に使用されている保存処理木材もいずれ は劣化していくものと考え、日常の管理を行うことが必要です。




「大きな目小さな目」(全国版)
(農林水産消費技術センター広報誌)
2001年9月 第59号


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